鳥籠ノ砂

籠原スナヲのブログ。本、映画、音楽の感想や考えたことなどをつらつらと。たまに告知もします。

イデオロギーの空虚な本質 ――ジジェク『否定的なもののもとへの滞留』感想

スラヴォイ・ジジェク『否定的なもののもとへの滞留 ――カント、ヘーゲル、イデオロギー批判』(1993)は、カントからヘーゲルまでのドイツ観念論をラカン派精神分析の理論とともに解釈し、その解釈を現代のイデオロギー批判に適用したものである。当時の…

個人主義は今や保守的である? ――平野啓一郎『ドーン』感想

平野啓一郎『ドーン』(2009)は一言で言えば、個人主義と分人主義の対立と和解を描いた作品である。個人主義とは、私たちの精神に単一の「主体」を想定する人間観であり、分人主義とは、そのような「主体」を想定しない人間観である。前者の場合、表層…

出来事の超越論性、欲望の分裂分析 ――國分功一郎『ドゥルーズの哲学原理』感想

國分功一郎『ドゥルーズの哲学原理』は、近年注目されている〈政治的ドゥルーズ〉の問題に真正面から答える書物だ。ドゥルーズの哲学には〈政治性〉があるのか、あるとすればそれはどのようなものなのか――この疑問を明らかにするため、國分はドゥルーズ哲学…

スピヴァク『文化としての他者』について ――現代フェミニズムの地平

デリダ『グラマトロジーについて』の英訳を手がけたスピヴァクが長大な「序文」で示したのは、「抹消の下へ置く」身振りへの並々ならぬ関心だった。それは彼女には、デリダの脱構築思想と他の現代思想を分ける大きな境界線に見えたのである。では、その関心…

【サンシャインクリエイション60】 『Fani通2012(下)』に寄稿しました。

6月23日(日)のサンシャインクリエイション60にて頒布される『Fani通2012(下)』に拙稿を載せていただくことになりました。2012年度下半期アニメ総合感想本です。 公式はこちら:http://d.hatena.ne.jp/f-kai/20130622/1371848782 お買い…

ネグリ+ハート『マルチチュード』について2 ――柄谷行人との関係

ネグリ+ハートの哲学は、様々な形で日本の批評・思想に影響を与えている。たとえば宇野常寛『リトル・ピープルの時代』(2011)の「拡張現実の時代」「リトル・ピープル」といった枠組は、濱野智史が指摘するように、ネグリ+ハートの言う「〈帝国〉時…

ボカロ良曲まとめ ――2013年4月&5月現在

①tilt『ヒカレルサテライト』 http://www.nicovideo.jp/watch/sm20433562 ②ピノキオP『ゲームスペクター2』 http://www.nicovideo.jp/watch/sm20538987 ③電ポルP『恋空予報』 http://www.nicovideo.jp/watch/sm20574984 ④out of survice『東京リアルワー…

戦後の性、そして忘れた家と思い出す友――TVアニメ『ガールズ&パンツァー』論

TVアニメ『ガールズ&パンツァー』は、主人公の西住みほが県立大洗女子学園で戦車道のリーダーを務め、チームを全国大会優勝に導いていくアニメである。戦車道とは1945年8月15日までに設計された戦車を使って行なう武芸であり、この作品では「女の…

スピヴァク『デリダ論』について ――現代フェミニズムの地平(1)

ガヤトリ・C・スピヴァク(1942~)はジャック・デリダ『グラマトロジーについて』(1967)の英訳を手がけ、そこに長大な序文(1976)を記した。彼女はデリダの略歴を紹介し終えるや否や、ヘーゲルとデリダの関係から「序文」一般の問題を説い…

軽さと重さ、あるいは衝動としての愛 ――坂上秋成『惜日のアリス』について

もし小説に「正しい読み」があるのだとすれば、おそらく私は『惜日のアリス』を正しく読むことができていない。それどころか、おおよそ「作者の意図」とは真逆の解釈をしてしまったように思われる。しかし、「それがどれだけ気まずく悩ましい瞬間だとしても…

ネグリ+ハート『マルチチュード』について ――ドゥルーズ+ガタリとのスタイルの差異など

アントニオ・ネグリ+マイケル+ハート『マルチチュード――〈帝国〉時代の戦争と民主主義』(2004)は、『〈帝国〉――グローバル化の世界秩序とマルチチュードの可能性』(2000)の続編である。そもそも『〈帝国〉』は、グローバリゼーションに伴って…

アイドルとファンの垣根を越えて。 ――TVアニメ『ラブライブ!』論

TVアニメ『ラブライブ!』は、音ノ木坂学院の生徒である高坂穂乃果たちが、スクールアイドルとして活動する学園ドラマである。そもそも『ラブライブ!』とは、架空のスクールアイドル「μ’s」の日常や物語を雑誌上で展開しつつ、PV付きの楽曲を販売すると…

ボカロ時評2013年3月現在 ――くるりんご、椎名もた、じーざすP、みきとP

① くるりんご『幸福な少年』(PV:くるりんご) http://www.nicovideo.jp/watch/sm20184946 3rdアルバムから発表された『幸福な少年』は、初のデジタルなイラストレーションや「語り」の導入等によって、くるりんごにとって新しい局面を見せる作品とな…

【文学フリマ】 「ウェブニタス」「『青い花』評論集」「『たまこま』評論集」に寄稿しました。

4月14日(日)の文学フリマ in 大阪、および28日(日)の超文学フリマ in ニコニコ超会議に参加することになりました。 ① 土塊(@dokai3)氏編集の評論系同人誌「ウェブニタス」に、文章を書かせて頂きました。タイトルは、「彼女は虚構に回帰する。――…

「人それぞれだよ」がダメな理由――井上達夫『世界正義論』感想

井上達夫『世界正義論』は一言で言えば、「国境を越え、覇権を裁く正義」としての世界正義を追求する書物である。それゆえ、彼は「正義は国境を越えられない」という立場と「正義は身勝手に国境を超える覇権的なものでしかない」という立場を共に乗り越えな…

誘惑する哲学者 ――柄谷行人『哲学の起源』感想

古代ギリシアの統治形態とそれに類似した現代思想。 ①僭主政。不自由かつ不平等。→ファシズム。 ②デモクラシー。自由だが不平等。→アーレントおよびポパー(説得)。 ③哲人王。不自由だが平等。→レーニン主義。 ④イソノミア。自由かつ平等。→フロイトおよび…

ボカロ良曲の紹介と感想 ――2013年2月現在『ダンスダンスデカダンス』『コインロッカーベイビー』『夜咄ディセイブ』『純情スカート』

① カラスヤサボウ『ダンスダンスデカダンス』(PV:紫槻さやか) http://www.nicovideo.jp/watch/sm19940497 前々作『文学少女インセイン』の続編として制作されたらしき楽曲。教科書レベルの偉人を使い捨てる露悪的な歌詞は、そのまま「世界の中身はナン…

現在と過去、そして病 ――TVアニメ『中二病でも恋がしたい!』論

TVアニメ『中二病でも恋がしたい!』は、むかし中二病を患っていた主人公・富樫勇太が、今も中二病のヒロイン・小鳥遊立花と結ばれるまでを描く恋愛劇である。そしてまた、主人公と同じく元・中二病の丹生谷森夏と、ヒロインと同じく現・中二病の凸守早苗…

議論しない哲学者 ――ドゥルーズ+ガタリ『哲学とは何か』感想

ジル・ドゥルーズとフェリックス・ガタリ最後の共著であり、その思想の総決算とも呼ぶべき『哲学とは何か』(1991)は、タイトルが示すとおり、「そもそも、ドゥルーズとガタリは哲学をどのように捉えていたのか」について教えてくれる。一言で言うとす…

ボカロ良曲の紹介と感想 ――2013年1月『アンダンテ』『16ビットガール』『エレクトロサチュレイタ』『Don't pop me』『Q』

① Dixie Flatline『アンダンテ』 http://www.nicovideo.jp/watch/sm19639179 初音ミクの「里帰り」を描く Vocaloid イメージソング。タイトルには、「大きなうねりの中でも方角を見失わないように。心は常にアンダンテ(歩くような速さで)で」という Dixie …

説得しない哲学者 ――國分功一郎『スピノザの方法』感想

國分功一郎『スピノザの方法』はデカルトの思想とスピノザの思想を対比した上で、ある驚くべきテーゼを発見している。デカルトの思想が他者への説得を試みるのに対し、スピノザの思想は他者への説得を試みない、というのだ。 本書の問いは、人はいかにして真…

全体への道、個への道 ――TVアニメ『アイドルマスター』論

「961プロダクション」の社長である黒井崇男は、「765プロダクション」の社長である高木順一朗に「負けを認めたわけではない」と吐き捨てて去っていく。これが単なる遠吠えではないとすれば、いったい物語終盤のどこに彼の勝機があったのだろうか? T…

どちらが終焉したのか? ――スラヴォイ・ジジェク『ポストモダンの共産主義』感想

スラヴォイ・ジジェク『ポストモダンの共産主義』(2009)には、「はじめは悲劇として、二度めは笑劇として」というサブタイトルが冠せられている。ここで言われる悲劇とは2001年の9.11同時多発テロのことであり、笑劇とは2008年の金融大崩…

このボカロ曲がすごい! ――2012年版

2012年にニコニコ動画で発表されたボーカロイド楽曲のうち、個人的に素晴らしいと感じた10曲+α を挙げていきます(順不同&敬称略)。 ①ATOLS『呼吸』 http://www.nicovideo.jp/watch/sm19570828 ②ねこぼーろ『哀傷歌コンテキスト』 http://www.…

【冬コミ】 TVアニメ『true tears』評論集に文章が載ります。

2012年12月31日、冬のコミックマーケット三日目にて頒布される「5年たってもアブラムシ――TVアニメ『true tears』放送5周年記念評論集」に、拙稿を載せていただきました。 タイトルは「君をあの子の代わりにしない。――『true tears』論」です。 …

【寄稿】 『アニメの門』に文章が載りました。

2012年12月14日、『アニメ評論家・藤津亮太のアニメの門メールマガジン』にて拙稿を載せていただきました。タイトルは「2012年、残された希望――『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』論」です。 公式はこちら http://ch.nicovideo.jp/article/ar22959…

本の感想(『世界史の構造』『知の考古学』『神話が考える』)

『世界史の構造』 柄谷行人『世界史の構造』より引用。 「歴史の理念を嘲笑するポストモダニストの多くは、かつて『構成的理念』を信じたマルクス=レーニン主義者であり、そのような理念に傷ついて、理念一般を否定し、シニシズムやニヒリズムに逃げ込んだ…

映画の感想(『愛・おぼえていますか』『その男、凶暴につき』『バットマン』)

『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』 『愛・おぼえていますか』には、二つの「愛」が描かれる。ひとつは戦争の収束であり、もうひとつは輝と未沙の関係である。そしていずれの場合も、「愛」は「言語」の同一化として描かれる。すなわち前者は歌の…

【文学フリマ】 『maturing dead』に文章が載ります。

お知らせです。 2012年秋の文学フリマ、11月18日(日)に出品される『maturing dead』に、拙稿を載せていただくことになりました。タイトルは、「あなたのことを、特別と思う人がいればいい――『氷菓』論」です。 公式はこちら:http://d.hatena.ne.j…

コピーライトとアイデンティティ――中村明日美子『ウツボラ』論

1 中村明日美子『ウツボラ』は、コヨミと「三木桜」がすれ違うシーンで締めくくられている。このとき、コヨミには叔父である溝呂木舜のコピーライトが遺産として受け継がれており、「三木桜」には、おそらくは編集者の辻と性交したときに孕んだのであろう子…