鳥籠ノ砂

籠原スナヲのブログ。本、映画、音楽の感想や考えたことなどをつらつらと。たまに告知もします。

ボカロ良曲の紹介と感想 ――2013年1月『アンダンテ』『16ビットガール』『エレクトロサチュレイタ』『Don't pop me』『Q』

① Dixie Flatline『アンダンテ』

http://www.nicovideo.jp/watch/sm19639179

 初音ミクの「里帰り」を描く Vocaloid イメージソング。タイトルには、「大きなうねりの中でも方角を見失わないように。心は常にアンダンテ(歩くような速さで)で」という Dixie 氏の Vocaloid 文化に対する想いが込められている。『ジェミニ』のデビュー以降変わらない繊細な言葉選びによって紡がれる彼の歌詞と美しいメロディは、それだけで必聴。

 原案及びPVは、ゆうゆP『深海少女』を手がけたグラフィックチーム「ODESSA」。はるよ氏によれば、ryo『ODDS&ENDS』への「視聴者側からのアンサーソング」という考えもあるとか。個人的なポイントは、里帰りするポンチョコートのミクと、Vocaloid としてのお馴染みの制服を着たミクの対比。単なる音声ソフトだったはずの初音ミクが、あたかも血肉が通った人間であるかのように独り歩きする現在のボカロシーンが、このPVにおける「駅のホームや電車に佇む二重のミク」とシンクロする。

 

② うしろめたさP『16ビットガール』

http://www.nicovideo.jp/watch/sm19748724

 Vocaloid と人間の「境界線」「次元」に隔てられた愛……と見せかけて、実は生身の「平行線」「パラレル」な人間関係を抽象化して歌っているのか。そんな想像をくすぐるボーカロイド処女作。「うぉーあいにー」「てくのろじー」などの平仮名歌詞、そしてところどころに挟まれる「ポクポク」が、テーマの臭みを軽やかに消している。手書き風の字幕をちらりと横目に見やる気だるげなミクのイラストは、ぬまってぃ氏。

 

③ tilt『エレクトロサチュレイタ』

http://www.nicovideo.jp/watch/sm19807355

 片想いに悩む少女を描くボーカロイド処女作。百舌谷氏によるPVでは、積み上げられたテレビと電波塔、そして空を横切るいくつもの電波とともに、マフラーの少女が四季を経巡る姿が描かれる。彼女の片想いは電子の隠喩によって巧みに表現されるとともに、自分の手で塞がれてしまう心は「トランジスタの飽和領域を利用して音を歪ませる」サチュレイタに結び付けられる。米米PLUSによって装飾されたコメントは、想い=電子の群れとなって彩を添えてくれるだろう。楽曲、動画そして聴き手の三者による合わせ技である。

 

④ やまじ『Don't pop me』

http://www.nicovideo.jp/watch/sm19783446

 抽象的な歌詞世界が、「僕をポップにしないで」の鋭い一言と抑えられた曲調に収斂するボカロック。みず希氏の描く、髪を肩まで切り「天使」のように翼を携えたIAが空に向かって佇む姿は、反復された「弧を描く矢」という言葉によって不吉なイメージに染まっていく。矢が堕ちることなどなく、頭上のライトが消えることもまたない。「僕」のポップは「君」を刺し、閉ざされた空中にいつかの凍えた世界を見る「大人」は手紙を破いた。「僕」とはいつかの「少年」であり、「大人」ではないだろうか?

 

⑤ 椎名もた『Q』

http://www.nicovideo.jp/watch/sm19898621

 椎名氏曰く「初心者入門用テレキャス」の音が悲鳴のごとく挿入される新曲は、コメントを赤い線によって斬り倒すかのような米米PLUSの装飾や、さいた氏の描くガスマスクを被りマシンガン砲を構えた少女の姿も合わせて、この上なく戦闘的な印象を与えるロックとなった。掲げられたタイトルに違わず、「どうしてよ」「どうしても」という「小さな疑問」を畳み掛け「明日の歩き方を僕達に教えてよ」と突きつける歌詞は、しかしその「答え」を知ったところでどうにもならないこと、それを抱きしめて生きるほかないことも知っているらしい。あの有名な終焉の文句(「ありがとう」「さようなら」「おめでとう」)に「これからもよろしくね」と付け加えてくる辺り、『ヱヴァQ』に対する(あるいはこの世界に対する?)真っ向からのアンサーソングとして聴けるかもしれない。