鳥籠ノ砂

籠原スナヲのブログ。本、映画、音楽の感想や考えたことなどをつらつらと。たまに告知もします。

ボカロ良曲の紹介と感想 ――2013年2月現在『ダンスダンスデカダンス』『コインロッカーベイビー』『夜咄ディセイブ』『純情スカート』

① カラスヤサボウ『ダンスダンスデカダンス』(PV:紫槻さやか)

http://www.nicovideo.jp/watch/sm19940497

 前々作『文学少女インセイン』の続編として制作されたらしき楽曲。教科書レベルの偉人を使い捨てる露悪的な歌詞は、そのまま「世界の中身はナンセンスなんです!」という皮肉を支えるものだ。それは『プロパガンダ』から前景化した作者のいささか青臭い主張、すなわちボーカロイド界隈に対する懐疑の念を引き継いでもいるだろう。そのことを補足するように、PVは美少女キャラクターの顔を「検閲」して無意味化し、なんら本編に関係ない「あらすじ」を記述したかと思えば即座に放棄してしまうのだ。私たちはこの中毒性の高いサウンドの裏に、いわゆる「小説化」するボーカロイド曲へのささやかな主張を聴き取ってよい。

 

② maretu『コインロッカーベイビー』

http://www.nicovideo.jp/watch/sm19980280

 1970年代前半に多発した捨て子・死体遺棄事件を下敷きにしたらしきボーカロイド曲。前半の軽やかなメロディと冗談のような歌詞が、後半の不穏極まりないダブステップと切実な恨み節に対照をなす。最後には、赤子の泣き声とも腐敗音ともつかぬ「何か」が暗闇のなかで響くだろう。個人的には、わざわざ40年近く前の事件を取り扱い、それを初音ミクに歌わせることの批評性に注目したい。インターネットに浮遊するキャラクターたちは、ある意味で「想像で出来たシアワセを詰め直そうと閉じ込めたココロ」、すなわちコインロッカーベイビーのようなものなのだ、とするのは考え過ぎだろうか?

 

③ じん『夜咄ディセイブ』(PV:しづ)

http://www.nicovideo.jp/watch/sm20116702

 既に8作が発表されているシリーズ「カゲロウプロジェクト」の9作目。その見どころは、前作までとはいささか異なる物語の叙述形式だ。様々なキャラクターの一人称視点から作中の出来事を説明するのが「カゲプロ」の定石だったのに対し、今回はむしろそうした率直な説明ができない人物(「カノ」)を中心に据えたためか、歌詞もメロディも彼の葛藤や苦悩にスポットライトを当てることになった。PV越しに視聴者へ語りかけるような演出が全面化したのも、それゆえであろうか。たまたま同時期、悪質なデマに見舞われたこともあり、ひとりのユーザとしては「もっと聴いて! 僕の心を、我が儘を、この嘘を、本物を」と叫ぶ「カノ」の背後に私小説的な魅力を、もっと言えば作家「じん」の肉声を聴いてみたく思う。

 

④ 40㍍P『純情スカート』(PV:たま)

http://www.nicovideo.jp/watch/sm20127682

 ソロアルバム「シンタイソクテイ」およびコンピレーションアルバム「EXIT TUNES PRESENTS Vocalosensation feat.初音ミク」収録曲。なにかに隔てられた恋愛感情を描くという点で、この作品は同作者の『シリョクケンサ』と比較可能であろう。『シリョクケンサ』の主人公がヒロインを「胸」に抱き寄せて「視力」という壁を取り払ったのに対し、『純情スカート』の主人公はヒロインに「心臓」を握られたまま「スカート」というベールの消滅を諦めるわけだ。このモチーフと結末の変更はどこかセクシュアルな空気を歌詞世界へ持ち込むと同時に、ゆるやかな曲調も相まって、「届かない恋愛」を楽しむ余裕のようなものを作品全体にもたらしている。