鳥籠ノ砂

籠原スナヲのブログ。本、映画、音楽の感想や考えたことなどをつらつらと。たまに告知もします。

ボカロ時評2013年3月現在 ――くるりんご、椎名もた、じーざすP、みきとP

① くるりんご『幸福な少年』(PV:くるりんご)

http://www.nicovideo.jp/watch/sm20184946

 3rdアルバムから発表された『幸福な少年』は、初のデジタルなイラストレーションや「語り」の導入等によって、くるりんごにとって新しい局面を見せる作品となった。印象的なのは、意図的に音割れした初音ミク鏡音リンの声がテレビ上の「不幸」を語るやいなや、一転してクリアボイスのGUMI(=少年?)が身近で強靭な「幸福」を語ってみせる、その流れだろう。「本日午後四時、僕が此処に生きてるって事はあなたしか知らない」というシンプルな〈いま・ここ〉の肯定は、少年が病弱の身であるというラストの展開も相まって、くるりんごの世界観を存分に伝えてくれる。

 

② 椎名もた『3年C組14番窪園チヨコの入閣』(PV:森井ケンシロウ

http://www.nicovideo.jp/watch/sm20238968

 1stミニアルバムから発表された『3年C組14番窪園チヨコの入閣』は、タイトルからして否応にも『怪盗・窪園チヨコは絶対ミスらない』の続編的内容を期待させる作品だった。だが、森井ケンシロウ(『ストロボライト』も担当)によるPVはさらにその上を行く過激なもの、すなわち「窪園チヨコ」というキャラクターの生成それ自体だったと言ってよい。チヨコの記号は「ギターを背負った少女」と「眼鏡をかけた少女」に分割され、二人はゲーム然とした追いかけっこをしたかと思えば、ギター少女は唐突に相手の眼鏡を奪って撲殺しようとする。分裂した人格の殺害による統合――とでも纏めてみたくなるその物語は、鏡音リン(キャラクター)と椎名自身(人間)によるハーモニーの操作を経て、極めて批評的な寓話に変奏されるだろう。

 

③ じーざすP『しんでしまうとはなさけない!』(PV:グライダー)

http://www.nicovideo.jp/watch/sm20331479

 じーざすPとグライダーとの『リモコン』『BUNKA開放区』に続くコラボレーション三作目『しんでしまうとはなさけない!』は、言わば王道RPGのパロディ。仮に「ボーカロイドにしかできないタイプの曲」というものがあるなら、じーざすPとグライダーの二人組はそれらを制覇してしまったのかもしれない。すなわち『リモコン』で「リスナーとボーカロイドの関係」を仄めかし、『BUNKA開放区』で「ボーカロイド同士の物語」を描いたあと、『しんでしまうとはなさけない!』において「ボーカロイド同士の物語」をクライマックスで「リスナーとボーカロイドの関係」に開くというアクロバットを決めたわけだ(※)。

 

④ みきとP『クノイチでも恋がしたい』(PV:さいね)

http://www.nicovideo.jp/watch/sm20413055

 1stメジャーアルバム『僕は初音ミクとキスをした』収録の『クノイチでも恋がしたい』は、みきとP代表作のひとつ『サリシノハラ』と合わせて聴くことで、その魅力をより引き出せるように思われる。あからさまにAKB48指原莉乃のスキャンダルに応答してみせた『サリシノハラ』を踏まえると、『クノイチでも恋がしたい』の「恋愛禁止の掟と自身の感情の狭間で葛藤するクノイチ」という物語が、にわかに現代的戯画としての色を帯びてくるのだ。結末で彼女が「女(クノイチ)は女を捨てなさい」という理不尽な命令に従ったのか背いたのかは、もはや言うまでもないだろう。

 

(※)このあたり、いつか詳しくまとめてみたい。